第2回 「飛行機」

明治44年(1911年)頃の若者たちにとって、「飛行機」とはどのような存在だったのでしょうか?



まずは飛行機の歴史を振り返ってみましょう。

いきなりですが、世界で最初に飛行機で空を飛んだ人は誰でしょう??

ライト兄弟を思い浮かべる人が多いかと思いますが、答えはドイツ人のリリエンタールです。

ライト兄弟は1903年12月17日、世界初の「動力付き飛行機に乗って飛行に成功(59秒、260m)しましたが、 「動力なし飛行機」で成功したのはドイツ人のリリエンタール。1893年か94年頃とされています。



日本で最初に動力飛行機で空を飛んだのは、1910(明治43年)12月14日。

日本陸軍の日野熊蔵の乗ったドイツ製単葉機ハンス・グラーデが代々木連兵場の滑走路を駆け出し、ふわりと空を飛びました。

飛行距離25m。第2回目は60m。まさに歴史的な瞬間です。

ところが、なぜか日本では「日本初飛行の日」が12月19日とされています。

そのわけは、この日に陸軍の徳川好敏大尉がフランス製複葉機アンリ・ファルマンで3000mを飛行しているからです。

同じ日、日野も700mの飛行に成功しているのですが、
軍としては「徳川」の血を引く人間に栄誉を与えたかったということでしょう。



さてさて、本公演の主役の一人である杉坂初江(18)が初めて飛行機が飛ぶのを見たのは明治44年(1911年)3月。

大阪市にあった城東練兵場の上空を、アメリカのボールドウィン飛行団のマースが持ち込んだカーチス式複葉機が大空を飛び回りました。

飛行場が整備されていなかった航空の黎明期、
飛行機の離着陸は主に練兵場、競馬場、砂浜、原っぱなどで行われていました。

日本最初の飛行からわずか3か月、関西では最初の飛行ということもあり、
初江でなくても見た人は心を奪われたことでしょう。

以後、同練兵場は飛行のパイオニア達の舞台となったそうです。

当時の人にとって飛行機は無限の可能性を持った、人間の夢の象徴であったといえるかもしれませんね。


今回のお芝居は初江が歴史的飛行を目撃した半年後のお話です。


文責 松本圭右(舞台監督)